山口蓬春記念館 平成25年度 初冬特別展
山口蓬春と風景画
-画家の愛した美しき日本のすがた-
2013年10月25日(金)〜12月23日(月・祝)
この展覧会は終了しました。
古来日本において、自然描写は主に人物画や物語絵の背景として用いられてきました。一方、近代に入り明治の後半に起こった水彩画ブームの中で、自然景は風景画という独立した絵画形式として成立します。
そのような時代背景に青春を過ごした山口蓬春(明治26年〔1893〕-昭和46年〔1971〕)は、白馬会研究所に通って水彩画や油彩画を嗜みました。当時の水彩画のもつ瑞々しさや、後期印象派風の陽光表現が、かれの初期の作品に認められます。
こうして蓬春は大正4年(1915)から東京美術学校西洋画科に学び始めましたが、3年ののちには日本画に転向します。それまで身に付けた油絵の技法が、当初は妨げになったとも述懐しているように、異なる技法を咀嚼するのに苦労を重ねたようです。
日本画科在籍中、京都に移住した蓬春は、歴史的背景をもつ近畿の地に惹かれ、その風景を心に刻みました。北海道に生まれ東京で学んだ蓬春にとって、こうした古典的環境に取材した経験はその後に制作される風景画をいっそう味わい深いものにしました。
蓬春は日本画における風景画について次のように述べています。
「元來、日本畫(が)では西洋畫と違つて、實景(じっけい)をそのまゝ寫(うつ)して一枚の畫となす事が殆どないと云つていゝ。西洋畫は實景を其儘(まま)に寫生して立派な畫をなしてゐるものが多いが、日本畫では、寫生を基本として更に之に自己の理想を加へ、一つの寫生に他の寫生を加へて、一個の理想的風景を構圖(こうず)する。(中略)日本畫家は或る意味で自然を改造する詩人でなければならない。」(山口蓬春『日本畫の研究』成光館出版部、昭和9年〔1934〕)
本展では、主に蓬春の戦前の画業における風景表現に焦点をあて、洋画から日本画へ、さらに山水から風景へというユニークな展開を紹介します。伝統的な名所絵から抜け出し、新しい日本画の風景表現を追求した蓬春の足跡を辿り、画家の心を動かした日本古来の風光を追体験してまいります。
山口蓬春 《雨霽(伏見)》 「洛南之巻六題」の内 大正12年(1923) 東京藝術大学蔵 [前期のみ] |
山口蓬春 《風景》 大正元年(1912) 山口蓬春記念館蔵 |
山口蓬春(絵) 「日本新名勝図絵」より《奈良》 昭和2年(1927) 山口蓬春記念館蔵 |
山口蓬春 《山路》 昭和2年(1927) 山口蓬春記念館蔵 |
山口蓬春 《比良暮雪》 大正13年(1924)頃 神奈川県立近代美術館蔵 [前期のみ] |
山口蓬春 《波野》下図 昭和6年(1931) 神奈川県立近代美術館蔵 [前期のみ] |
山口蓬春 《晩秋(深草)》 「洛南之巻六題」の内 大正12年(1923) 東京藝術大学蔵 [後期のみ] |
山口蓬春 《薄暮》 大正10年(1921) 東京藝術大学蔵 [前期のみ] |
山口蓬春 「富士百趣」より《夏》 昭和3年(1928) 一般財団法人野間文化財団蔵 [後期のみ] |
山口蓬春 「富士百趣」より《秋》 昭和3年(1928) 一般財団法人野間文化財団蔵 [前期のみ] |
山口蓬春 「十二ヶ月図」より《秋の海》 昭和2年(1927) 一般財団法人野間文化財団蔵 [後期のみ] |