蓬春の戦後の創作は、新しい日本画への模索であったといえるでしょう。
昭和20年代、マティスやブラックなどの西洋近代絵画の影響を思わせる色彩の平面的な表現を試みていた蓬春は、昭和30年前後から再び写実的な表現へと立ち返り、テーマを絞り込みながら多くの静物画を描いていきました。
その重要なモチーフとなるのが、常時、画室に並べられ愛でられていた器の数々です。蓬春にとっての静物画は、組み合わされたモチーフの質感の違いや造形的な面白さの追究とともに、自らが古美術品として収集し、愛した器を描くことでもありました。既に完成された造形美を備えもつそれらの品々を繰り返し描きながら、自らの作品のなかで昇華させ、新たな視点で捕らえなおすことで、時を経ても変わらぬ美を現代の私たちにも伝えています。
今回の展示では、蓬春の静物画を通じた画風の変遷とともに、そこに描かれた器をあわせてご覧頂くことで、蓬春が目指した新日本画への軌跡の一端をご理解いただければと思います。
山口蓬春《まり藻と花》
紙本彩色/額
1955(昭和30)年 |
山口蓬春《佐与利》
紙本彩色/額
1951(昭和26)年 |
山口蓬春《ペルシャの鉢》
紙本彩色/額
1964(昭和39)年 |
白地鉄絵笹耳壺
陶製
磁州窯
中国・唐代 7~10世紀 |
ペルシャ三彩小鉢
陶製
トランスオクシアナ出土
9-15世紀 |
ペルシャ飛鳥文鉢
陶製
トランスオクシアナ出土
9-15世紀 |